2019年
-欧文約物タイプフェイス-
荒川 正光[森山ゼミ]
Punctuaは欧文の約物のみを収録したフォントファミリーである。当然約物のみでは使い物にならない。実際に使用するには既存の欧文書体と混植する必要がある。不特定多数の本文用欧文書体に対し違和感の少ない形状を追求する場合、その形状はきわめて一般的かつ無個性でなければならない上に、ファミリーもまた膨大でなければならない。Punctuaによって、タイポグラファは同一の書体の中で約物の形状に関しての選択肢を複数持つことが可能となる。
新しい活字書体は人々にその新鮮さが気づかれないほど優れているとは、スタンリー・モリスンの信条だった。そうした事態に変化はあるが、Punctua(約物)やVignette(花形装飾)にはなお寡黙さが求められる。だからこそ、速読性や判読性に影響を与えるこの「約物専用タイプフェイス」研究の独自性が際立つ。各書体の研究を基礎として合成フォント専用へと進んだ開発手順は真っ当で、書籍の出来上がりも申し分ない。高貴なスミレの花を見る思いのする研究である。(森山明子)