武蔵野美術大学造形学部デザイン情報学科

大学院

修士課程デザイン専攻デザイン情報学コース

デザイン情報学コースは、社会性を考慮した論理的アプローチと美を求めた感覚的アプローチの両面で成り立っています。論理に基づくデザイン提案だけでなく、感覚的な思考のプロセスを分解し、新たに研究制作として構築することを期待します。また、指導教員の研究分野である「メディア表現系」「デジタル技術系」「コミュニケーション創発系」の三つの専門領域を中心としながらも、それらを横断的な視座で捉えた研究を試みます。修士の最終成果は[1]メディアやデザインなどシステムの提案、[2]コンテンツ・表現の研究論文、[3]上記に関連する作品制作を目標とします。

理念・教育目標

デザイン情報学コースは、多様なデザイン行為やメディア表現を情報学の視座 から研究し、生活や社会環境に対する新たな捉え方を提示することを教育理念とします。また、本コースは、研究アプローチによって最適な研究成果を求め、 論文執筆もしくは作品制作、またはその複合的な成果も受容し、デザインとその周辺世界を開拓する理論構築とその実践を教育目標とします。

研究概要一覧

2025年度6月現在、デザイン情報学コースに在籍中の修士2年生の研究概要一覧です。

人の動作に基づく感情伝達に関する研究 ―感情表現の動作の記号化―

キン エキドウ〈M2〉人の動作に基づく感情伝達に関する研究 ―感情表現の動作の記号化―

 近年のAI技術の進展により、人間と機械の自然なコミュニケーションの実現が重要な課題となっている。特に、人間の基本六感情(喜び、怒り、悲しみ、恐れ、嫌悪、驚き)の表現においては、生成AIやロボットによる技術的模倣が進む一方で、不自然さや違和感が残る例も多く、依然として課題が多い。 一方、Laban Movement Analysis(LMA)に代表される舞踊理論は、身体動作によって感情を伝達する可能性を示しており、本研究は、身体動作のみで六感情をどこまで伝達可能かを明らかにする。 モーションキャプチャ技術を用いて感情に伴う動作を記録する。関節をノードとした運動軌跡の分析を行う。得られた結果に基づいて人間の形を持たない機械や物体で感情に応じた動作を「幅」「強さ」「速度」により動作パターンを試作する。その上で、視覚的な動作情報のみを通じて、鑑賞者がどの程度その感情を認識・受容できるかを検証する。 最終的には、感情を伝達する動作の分析結果からインスタレーションアートとして表現する。

写真によるタロットカード再構築と占い体験の創出―現代における〈魔女狩り〉的構造への視覚的抵抗―

コ レイゲン〈M2〉 写真によるタロットカード再構築と占い体験の創出 ―現代における〈魔女狩り〉的構造への視覚的抵抗―

 タロットカードは中世ヨーロッパで誕生し、占いや自己探求の道具として長く用いられてきた。現代においても、タロットは単なる占いの道具を超え、自己理解や心理療法の一環として、ストレスの軽減、創造性の刺激、他者との共感促進など、多面的な役割を果たしている。複雑な社会の中で、タロットは人々が自分自身を見つめ直すための有効な手段の一つとなっている。 本研究では、タロットカードに対応する要素を、日常生活の中で撮影した写真を通じて視覚的に表現する。各カードに対応する写真をミニ折本として構成し、開けば写真集、閉じればカードとして機能する形式を採用している。 また、写真集の展示形式と占いの体験を組み合わせることで、占いを受け身ではなく、自分で選び感じる新しい体験として再構築している。それにより、「魔女」という存在のイメージを現代的な視点から問い直し、〈魔女狩り〉的構造への静かな抵抗を視覚化することを目指す。 本研究を通じて、タロットに内在する偶然性と統計性の神秘、占い文化と現代人の心理環境との関係性、そして混乱した社会の中で自己を見つめ続ける人間の営みを、写真を通して探求していく。

旧居のデジタルアーカイブシステムデザイン

タン ヤング〈M2〉 旧居のデジタルアーカイブシステムデザイン

 本研究は、災害や過疎化、加齢による移住といった背景のもと、やむを得ず住み慣れた住居を離れた人々のために、失われつつある居住空間とその記憶をデジタル技術によって保存・共有するアーカイブシステムの構築を目的とするものである。日本は自然災害の多い国であり、地震や津波、大雨などによって住居が甚大な被害を受けることも少なくない。また、過疎化に伴って地域の機能が衰退し、学校の閉校や都市部への移住を余儀なくされるケースも増えている。しかし、引っ越しの際に家そのものや、その中での出来事や思い出をすべて持ち出すことはできず、時間の経過とともにそれらの記憶も徐々に失われていく恐れがある。 そこで、住居の空間を3Dスキャンなどで記録し、そこに紐づいたエピソードをデジタル上で再現・保存することで、個人や家族の記憶を継承・共有する新たな方法を提示する。また、このアーカイブは家族以外の第三者も自由に閲覧・移動・コメントが可能であり、他者の視点によって忘れられてしまった記憶が新たに発掘されることを目指す。これにより、記憶の保存のみならず、時間や空間を越えた共感や対話の場を創出することを可能にする。

語源記憶法を応用した手話語彙学習装置の設計と評価 ―視覚的提示とインタラクションによる学習支援の研究―

チ ガイイ〈M2〉 語源記憶法を応用した手話語彙学習装置の設計と評価 ―視覚的提示とインタラクションによる学習支援の研究―

近年、手話学習は教室授業やオンライン講座、VRゲームなど多様化しており、デジタル技術の発展とともに進化している。手話は非母語話者にとって、手の動きや空間配置を動画やテキストだけで直感的に理解するのが難しく、語彙学習は単なる暗記になりがちである。しかし、語源をもとに、推理しながら言語を習得する語源記憶法を活用することによって、暗記に依存することなく手話を学ぶことができる。  そこで、本研究は語源記憶法の応用による新たな手話学習方法の探究を目的とする。  まず、手話語彙の語形成や意味構造に関する調査を行い、視覚的に表現しやすく、初心者が理解しやすい基本語彙を対象とする。次は、語源の意味と視覚イメージを結びつけ、インタラクティブ装置を制作する。最後に、学習者に装置を使用してもらい、特定の語彙の理解度を記録し、その学習効果を検証する。語源に着目した学習方法によって、学習者が手話の成り立ちや意味を構造的に捉えることが可能になり、記憶定着や理解の深まりが期待される。  本研究は、手話学習の新たなアプローチを提示し、今後の教材開発や教育支援ツールの発展に寄与していきたいと考えている。

映像インタラクションによるクラフト工程の表現研究

チン バイ〈M2〉 映像インタラクションによるクラフト工程の表現研究

現代、工業化に伴い大量生産された安価な日用品が流通することで、高価な工芸品への需要は減少し、工芸作家の数も減少傾向にある。 本研究は、一般の消費者を対象に、クラフトの制作工程における意匠の魅力や、手作業ならではの温もりを体験的に伝えることを通じて、消費者の鑑賞能力を育み、クラフト文化への理解と関心を深めることを目的とする。単なる完成品の美しさではなく、「どのように生まれたか」という工程への共感を促すことで、クラフト市場の需要拡大につながると考える。 まず、制作工程、素材、化学変化、道具、身体感覚などの観点から、既存のクラフト技法について調査を行った。また、クラフト技法を応用した作品や研究を分析し、工芸における工程の価値と、鑑賞者に伝えるべき魅力のポイントを整理した。特に、金属加熱による色の変化や酸化被膜によって生じる構造色に注目し、クラフト工程における繊細な変化を直感的に体験できる仕組みを試した。 次に、調査をもとに、体験者が手の動きによって仮想空間内の金属を加熱し、色彩の変化や微妙なニュアンスをリアルタイムで観察できるインタラクティブコンテンツを試作した。加熱量や視点の違いによって色や質感が変化するプロセスを直感的に体験できる作品を制作する。鑑賞者がクラフト工程の理解を深め、クラフトへの興味を喚起することを目指している。

環境要因を取り入れた巻貝の手続き的形態表現 ―自然と形の対話から生まれる造形的可能性の探求―

リク イホウ〈M2〉環境要因を取り入れた巻貝の手続き的形態表現 ―自然と形の対話から生まれる造形的可能性の探求―

  自然界の生物形態は、環境適応の結果として機能性と美的秩序を兼ね備えている。なかでも巻貝の殻は、等角螺旋という単純な幾何学原理に基づきながら種ごとに多様な形態を示す。David Raupによるモデルは、貝殻の成長過程をパラメトリックに捉える代表的な研究であり、近年ではメディアアートの造形手法としても注目されている。  本研究ではこのような文脈を踏まえ、巻貝に内在する規則性を手続き的に記述し、さらに環境要因を取り入れることで、新たな造形表現の可能性を探る。  研究方法として、文献調査および標本観察から巻貝の形態的特徴を数理モデルへ変換し、手続きアルゴリズムを構築する。加えて、巻貝の生態資料を調査し、環境要因が形態に与える影響を抽出する。ピアソン相関係数や回帰分析などの統計学手法を用い、環境要因と巻貝の形態を表現する数理的パラメータとの対応関係を導出する。最終的に、こうした対応関係に基づき、環境要因の入力によって形態が変化するインタラクティブな巻貝生成システムを実装し、巻貝の形態を視覚的かつ対話的に表現する。  本研究は、特定の種を再現するのではなく、貝類に共通する形態的特徴を汎用化し、それらを手続き的アルゴリズムとして再構成することで、多様な形態への展開が期待される。

長時間露光写真を用いた人間の行動パターンの可視化研究

リン シュイヤン〈M2〉 長時間露光写真を用いた人間の行動パターンの可視化研究

 本研究は、日本や中国など東アジアの社会における行動の停滞や繰り返し現象を、長時間露光写真を用いて視覚的に捉えることを目的としている。 日本や中国などの社会では、同調圧力が人々の行動や選択を限定し、変化の機会が阻害されることが広く認識されている。そこで本研究では、長時間露光写真技術と時間スタック写真技術を用いて、日常生活で繰り返される行動パターンを可視化することを試みた。 具体的には、「風景を折り重ねる」という作品を制作している。この作品では、公共空間で一定時間内に撮影された多数の写真を一枚の画像に合成し、人々の行動パターンがどのように繰り返されているかを視覚的に明確化した。これにより、日常的な社会の慣性と停滞が象徴的に示され、人々が無意識に行っている行動と新たな変化の欠如が浮き彫りになった。 社会の慣性を写真で捉えた例は少なく、本研究による視覚的アプローチは、新型コロナウイルス感染症拡大など社会的停滞の理解と新たな視点提供に貢献できることを目指す。

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研究概要集

2024年度

2024年度 修士研究概要集 PDF

・アン ジスゥ 『デジタル療法のためのフィットネスゲーム制作の研究 -うつ病患者の身体活動を伴った心理セラピーの提案-』

・オウ イシ 『共感覚に基づく味覚の可視化に関するグラフィック表現の研究』

・キム ウンジン 『形態・色彩における「可愛らしさ」のイメージのデザイン手法 -韓国と日本における地域のマスコットキャラクターの提案-』

2023年度

2023年度 修士研究概要集 PDF

・シン キ 『こころの状態の視覚化に関する研究』

・リュウ ネイキ 『街の再現:地域文化の視覚的特徴を再構成する試み ー渋谷をモデル地域としてー』

・リン タクイ 『ユーモアを喚起するためのコミュニケーションデザイン ーユーモア(笑い)に基づいた日用品デザインー』

2022年度

2022年度 修士研究概要集 PDF

・オウ キ 『オノマトペにおける言語学習支援の研究 ーオノマトペから映像へ変換する調査ー』

・コウ ブンキン 『手の動きを音楽に転換する新しい音楽表現システムの研究』

・ネイ ゲツキ 『ボクセルに対する人の認知心理の研究 ー人がモノのかたちを認識するためのボクセルの最小単位を探る調査ー』

2021年度

2021年度 修士研究概要集 PDF

・コウ ブン 『ホログラム原理によるテクスチャのデジタル化制作』

・サイ シカ 『都市公共空間における環境情報の記号化表現』

・トウ ニナ 『モンゴル、ウイグル、アイヌ族の民族舞踊からみた文化的造形要素の研究』

・リュウ カキ 『社会に潜む制度やその特徴の可視化 ータイポロジーとアナロジーによる写真表現ー』

2020年度

2020年度 修士研究概要集 PDF

・オウ モヨウ 『写真におけるタイポロジー手法の比較研究』

2019年度

2019年度 修士研究概要集 PDF

・後藤 英里佳 『SNS 時代の集客手法と顧客観点から見た美容ビジネスの現状と展望 ーより良い美容サービスを提供するためにー』

・鈴木 健一郎 『CNN による字間予測と有用性の検証』

2017年度

2017年度 修士研究概要集 PDF

・チョウ リョウイ 『店舗メディア情報の「エデュケーション性」に関する研究』

・デン シウ 『中国の京劇音楽のリズムのデジタル化に関する研究』

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